「ビー玉」「ビニール袋」「ピンクのホッチキス」

 

 

 

とある製本会社、そこで働いているのはたったの5人。

その会社はとても小さく、仕事は全て、手作業で一冊一冊仕上げていた。

仕事が入ることは稀なのだが、今日はめづらしく皆忙しく働いていた。

笠岡静香(かさおか しずか)も、いつもおろしている黒髪を後ろで一つに束ね、

カシャン、カシャンと、自前のピンクのホッチキスで本を閉じていく。

静香の後ろでは、止まることなく印刷機の機械音が続いている。

印刷された紙は、静香の同僚の皆川あやか(みながわ あやか)が溜まる度に取りだし、

枚数を確かめてから、静香に合い向かうように座っている早川拓海(はやかわ たくみ)に渡す。

それをページごとに仕分ける早川。分けられたものは静香に手渡され、それを閉じていく。

閉じられたモノは脇に積まれ、それを一つ一つ中を確認しながら須藤創太(すどう そうた)がダンボールに詰めていく。

機械的な動き。素早い作業。時折誰かが口を開き弾む談笑。

みるみるうちに製本され、ダンボールの山が入口を塞ぐほどだった。

 ああ、もうすぐ終わる。

皆がそう思い、最後のラストスパートをかけたその時、

ギィ…ばさぁっっ!!

一斉に仕事をしていた皆が手を止め、入口に目を向ける。

そこには、苦笑いした本社の社長 小沢武(おざわ たけし)が手にビニール袋を下げて立っていた。

 小沢さ〜ん

4人は口を揃えて溜め息混じりにうなだれた。

崩れたダンボールの山。中から飛び出た本。

 すまんすまん

悪びれたように小沢は散らばった本を拾い上げ、ダンボールに詰める。

須藤も手伝い、すぐに元通りのダンボールの山が積まれた。今度は入口を塞がぬように。

ふぅ、と、一息をつく小沢。ふと、足下に視線を落とす。

透明なビー玉。小沢の右足に寄りかかるようにあった。

 なんでこんなとこにビー玉があるんだ?

小沢が拾い上げ、仕事をしている4人に問いかける。

 あ、多分それ私のです。

静香が片手を上げ小沢に言う。

 なんだ?このビー玉は

小沢が静香に手渡し聞いてみる。

 ただの、お守りですよ

そう言って静香はポケットにしまい込む。

小沢も大してそのビー玉には気にもせず、すぐ自分の机に戻り、

回転椅子にゆっくりと腰を掛ける。

 みんな、仕事が終わったら飲みに行くか、俺が奢ろう

4人は歓喜の声を上げ、一気に部屋の空気が盛り上がる。

 

 

とある製本会社のお話。ただそれだけのお話。